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東京地方裁判所 昭和38年(モ)791号 判決 1963年5月13日

申立人 平林敏典

右訴訟代理人弁護士 斉藤富雄

被申立人 甲田英三郎

右訴訟代理人弁護士 近藤与一

同 近藤博

同 近藤誠

主文

被申立人(債権者)から申立人(債務者)に対する東京地方裁判所昭和三二年(ヨ)第一五二号仮処分命令申請事件につき、同裁判所が昭和三二年一月一七日にした仮処分決定を取り消す。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

この判決第一項は仮に執行できる。

事実

≪省略≫

理由

一、申立人主張の事実(別紙申立理由第一、二項)は争いなく、この事実によれば、被申立人は本件仮処分の本案として提起した訴訟において敗訴が確定したわけである。

二、被申立人は、右敗訴は請求の法律構成を誤つたためで、被保全権利が全く否定されたのではなく、今後別の請求原因による訴が提起すれば勝訴は確実であるから、事情変更にあたらぬと主張する。

なるほど保全処分に対応する本案訴訟は、保全処分の申請において主張した被保全権利と請求の基礎において同一である限り、種々の請求原因にもとづく訴訟が可能であるから、逆にいえば、保全処分は右の範囲内で種々の請求原因たる権利を保全するといえる。しかし、これらの権利は同一訴訟で予備的にでも主張し得るのであつて、故意にせよ過失にせよ、たまたま単一の請求原因で提起した本案訴訟に敗訴が確定したとき、次に別の請求原因で新たな訴訟を提起し(これは従来の訴訟物理論による限り可能である)、その帰すうまで当該保全処分を維持しなければならぬものとすれば、保全処分決定に対、種々の取消原因を設けて当初における債務者の劣位を補おうとする法の趣旨を没却する(殊に新たに起訴命令申立による取消は不可能になる)従つて一旦債権者が本案として提起した訴訟において理由なしとして敗訴確定すれば、当該保全処分は事情変更ありとして取り消すべきものと考える。

三、本件の場合、当事者双方の主張、甲第一、第二、第三号証(各判決正本)、及び本件仮処分申請事件の記録によれば、その申請において被申立人(債権者)は、申立人(債務者)及び前田澄男に対し「電話加入権取消、加入権移転請求の訴を準備中」と主張し、本案訴訟において、申立人及び前田を被告とし、電話加入権確認、同加入権名義変更登録抹消(申立人に対し)、同加入権を被申立人名義に変更手続すること(前田に対し)を各請求し、第一審で勝訴したが、第二、第三審で敗訴したものであり、被申立人が新たに提起し得ると主張する訴は、申立人及び前田に対し電話加入権譲渡(申立人から前田に、前田から被申立人に)につき電信電話公社の承認手続を求めるというものである。

右によれば、被申立人は結局電話加入権を自己名義に変更しようとするもので、前記各請求は請求の基礎は同一であるが、一方は電話加入権自体が被申立人にあるとの主張にもとづくものであるのに、他方は契約関係にもとづく請求といえるから、請求原因は別である。

従つて、被申立人主張の新訴も、理由の有無は別として、できないわけではないが、そうかといつて、本件仮処分を事情変更ありとして取り消さざるを得ないことは、前記のとおりである。

四、そこで訴訟費用及び仮執行の宣言につき民事訴訟法第八九条、第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小堀勇)

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